新型コロナウイルス禍で入院中の面会が限られ、十分なコミュニケーションが取れない状況が患者、家族のストレスや悩みになっている。そんな中、訪問看護を活用した自宅での療養は、悩みを解決する選択肢の一つだ。
飯南町訪問看護ステーション(島根県飯南町頓原)の加瀬部初恵所長は「家族の負担が大きくなる課題はあるが、住み慣れた環境で自分らしく過ごせる」と話す。
同ステーションは、飯南町と雲南市掛合町、吉田町(人口計8685人)がエリア。4人の看護師と作業療法士1人で、現在は58件の自宅を訪問する。医療的なケアだけではなく、着替えやオムツ交換、入浴の介助など生活のサポートも業務の一環だ。
がんで訪問看護を利用するのは、終末期の患者が多い。コロナ禍で面会が制限され、家族に会えないつらさから「家に帰りたい」との声が増えているという。
終末期の患者宅には、容体の急変に対応できるようほぼ毎日訪問する。脈数や手足の温かさ、息の仕方などから状態を判断。「呼吸が荒くなるなどの症状が出たら訪問看護師にすぐに電話してください」と声をかける。痛みや苦しみを緩和する薬も医師に相談し、準備する。予測される変化をその都度知らせ、家族の不安に寄り添うことを大事にしている。
加瀬部さんが訪問看護の利用を勧めるのは、終末期以前の治療中から療養生活をサポートできることがあると感じるからだ。
服薬しながら月1回の外来治療を受ける患者は、痛みのコントロールや吐き気の副作用に悩んでいても、次の診療まで我慢するケースが多い。訪問看護を利用すれば、薬の調整など早めの対応ができる。看護師と話をすることで気持ちが楽になることもある。
患者の中には、病院での治療を強く望む人もいる。自宅では最善の治療ができないと考えるからだが、実際は自宅でできる治療もたくさんある。病院よりもリラックスした状態で療養ができるため、笑顔が増え、食欲が増すケースもある。
病状への不安から、自宅での療養に踏み切れない家族もいるが、最終的に「短期間でも一緒に過ごすことができてよかった」との声を聞くこともあるという。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)という取り組みがある。自分が望む人生の最終段階を前もって考え、家族や医療従事者と繰り返し話し合うことだ。加瀬部さんは「治療方法は時代と共に多様化している。訪問看護は24時間365日、いつでもサポートできる体制を整えている。つらい気持ちにふたをせず相談してほしい」と呼びかける。
(2022年4月29日掲載)